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出会いを求めてバイト探し
私の高校は男子校で、しかもかなりのヤンキー高校でした。
そんな学校なので、出会いを求めてファーストフード店やファミレス。
果ては個人経営の蕎麦屋さんまで、バイトの面接は軒並み不採用。
下手するとその場で『〇〇高校でしょ?んー今回は申し訳ないけど…』と断わられたりもしました。
笑っちゃう事に、あんまり落とされ続けたのでムキになっていたのかもしれません。
『出逢い』という最大の目的は何処へやら、手段は目的と化し、私が最後に流れ着いたのは観光バスの掃除でした。
採用の電話を貰って、謎のガッツポーズ。
初日の仕事で自分の失敗に気付きます。
「あれ?女子居ないじゃん」
唯一の女子は社長の奥さん(65)です。
しかもちょっと慣れてきたら
「君にこの現場任せるからね」
って言われて、それ以来私は1人で仕事をする事に。
私の友人や先輩だったら、そんなバイトはさっさとバックれちゃう所なのでしょうが、私は元々根が真面目。
「一度始めた事は最後まで」の両親の教えの元に、高校生活をそのバイトに注ぎ込む事になりました。
そんなバイトですが、仕事相手に女子がいないだけで、女子が全くいない訳ではありません。
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観光バス=バスガイド
そうです、観光バスと言えばバスガイドさんですね。
高校生の私から見れば大人の女性。しかも制服です。
あちらもあちらで、職場には運転手のおっさんしか居ない環境。
高校生の私の登場はちょっと新鮮だった様です。
私の仕事はバスガイドさんが車内の片付けや忘れ物などを確認後、窓や床を拭くという感じ。
なので、お話するチャンスなんてほんの一瞬です。
ちょっと小慣れた奴なら、そんな一瞬も逃さないのでしょうが、元々私は器用な方では無い。。
会話と言えば「ちーす」とか「もう良いっすか?」。
相手からすると、無愛想で可愛げの無い高校生だった事でしょう。
そんな私に、たった1人だけ優しく接してくれるガイドさんがいました。
ちょっと仕事を手伝ってくれたり、お菓子やジュースを差し入れしてくれたり。
ある日車内の掃除をしてると、そのガイドさんが入ってきました。
いつも通りに仕事を手伝ってくれるのかと思いきや、その人は客席に座って世間話を始めました。
仕事の愚痴や、私の事。
ちなみに私が高校生だって事は知らなかった様で、かなりビックリされました。
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彼氏あり年上女性を好きに
それ以来、その人はちゃんと話せるたった一人のガイドさんとなり、耐性の無い私はその人の事が好きになってました。
男子校の生徒なんてチョロいもんだと我ながら思います。
見た目はそんなに可愛い訳では無かったですが優しいし、いい匂いだったし。
でも、世間話をする中でガイドさんには彼氏がいるのも分かりました。
やがて卒業が近くなり、私は遠くの大学に通う事になり、地元を離れる事が決まりました。
なので、そのバイトを続ける事が出来なくなりました。
卒業式前日に告白!
最終日を卒業式の前日と決め、私はその人に告白しようと決めていました。
その日は朝からバクバクです。
私が仕事をしていると、ガイドさんが入ってきていつも通りに仕事を手伝ってくれました。
「あのー…」私が手を止めて話しかけると
「んー?」と言いました。
「俺、明日卒業式なんです」
「おーおめでとう!進学するの?」
彼女が満面の笑みを浮かべて答えます。
「はい。来月から一人暮らしです。で、バイトも今日が最終日です」
「えー本当に?なんだーもっと早く言ってくれれば良かったのにー何にもあげないけど」
そう言って笑いました。
文章で書くとサラサラと会話している様に思えます。
が、この時の会話は相当不自然で、私の声は自分でも分かる位に震えてたと思います。
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そんな私の様子に、ガイドさんも気付いたのでしょう。
手を止めて私の方に向き直ってくれました。
(今しかない)
そう思った私は彼女と目を合わせられなくなり、俯いて顔も真っ赤だったと思います。
「どうしたー?」
ガイドさんはゆっくりと近付くと、俯いて立ち尽くす私の顔を覗き込みました。
「あの…おれ…ガイドさんの事が」
そこまで言うと私は顔を上げてガイドさんを見ました。目の前で優しく笑ってました。
「おれ…ガイドさんが好きです」
夜のバスの車内で、なんとも冴えない告白だったと思います。
しかし一番ダメだったのはそんな事じゃありません。
私の告白の後に、ガイドさんは私の前に近付くと
「そっか。ありがとね」
そう言うと私のハンカチで拭いてくれました。
私は泣いていたのです。
3年間思い続けた人だったのも有りますが、きっと地元を離れて一人になる不安も有ったのだと思います。
背の低い彼女は俯く私の前髪をそっと撫でながら
「私ブスだからさ、こういうのあんまり慣れてないから、どうしてあげたらいいのか分かんないの。ごめんね」
「私ね、彼氏がいるの。その人のが好きだから、君に応えてあげられないんだ。ごめんね」
「でもね、彼氏は君みたいにカッコよくないから、こんなにカッコいい人に好きって言われて、すごく嬉しいよ」
ガイドさんが話す間、私は黙って俯いていました。
「ん?」
ガイドさんはもう一度私の前髪を撫でると、ゆっくりと顔を近づけて、軽く、本当に軽くですがキスをしてくれました。
「ごめんね。内緒にしてね。早く忘れて彼女作ってね」
ガイドさんは私の肩をそっと撫でて、バスを出て行きました。
バスを降りる時、振り返って
「元気でね」
といつもの様に笑いました。
私はしばらくその場に立ち尽くして、フラれた気持ちと、彼女の唇の感触を噛み締めていました。
翌日は卒業式で、前日の出来事のお陰で私は大泣き。仲間にドン引きされました。
20代半ばの女性から見れば、少年の世迷言だった事でしょう。
でも、とても優しくフってくれたので、あれから30年近く経ちますが、今でも思い出すと優しい気持ちになります。
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